旅に出た絵画修復士 ( Painting Restorer’s Journey )

2022.6.6 Vimeoへ変更


さて、今回の音楽付き雑談ですが、主人公は、美術館に勤める絵画修復士です。

「今の時代、AIが空想までしてくれる凄い時代に入っている。
絵画修復士がとても無理と諦めていた困難事例への挑戦なら、拍手を送りたくなる。
その反面、だったら、自分たちのやっている簡単な修復なんてオチャノコサイサイでしょう・・・・
あ~あ、絵画修復というこんなニッチの職業までAIが奪っていくのか・・・
モチベーションが落ちてきた。
気分が滅入る・・・。」

館長にお願いして、長期休暇をもらうことにしました。

どうせ、私が修復中の絵なんか、あまり人気ないから。

修復中って書いておけば、問題ないよね。館長!

さあ、羽根を伸ばそうっと!!

じゃあ旅に出ます!!


実は、あるTV番組をみました。

2019年6月、NHKスペシャルの「モネ睡蓮(すいれん)~よみがえる“奇跡の一枚”~」を見ました。
モネが描いた睡蓮、その一枚の絵が、上半分が失われた状態で発見されました。それを、最先端の科学技術、AIを使って、モネの作風を学習させる、復元する。モネをマネする。そんなとんでもない試みが、日本で、絵画修復士とのプロジェクトにより行われました。

残されている部分は手作業で復元し、消えてしまった上半分をAIでデジタル復元をして、合成する、という手法がとられました。

正直、こんなことをしてしまっていいのか、反対した人もいたのではないか。と思いながらも、実験的試み、であるなら、許されるのだろう、と。

こんな凄い人類の英知に感心しながら、対照的に、思い出されたのが、2012年の珍事、スペインのある教会のフレスコ画修復事件。そのキリストの顔の修復が、あまりにヘタクソで、幼児が描いたようなので、世界中が腹を抱えて笑った、あの事件のことでした。あの修復を行った、セシリア・ヒメネスおばあちゃんですが、実は、地元で個展を開くほど、絵の上手い方だったということも驚きでした。

先日、図書館で、西洋美術史をペラペラ眺めてみたのですが、やはり、貴重な作品と言われるものであっても、顔の表現は、随分、漫画のようだったり、雑な描き方なものも混じっています。精緻でリアルであるから素晴らしい、と単純に決め付けられるものではないことが分かります。

確かに、ルネサンス以降は、急に、顔や体の表情のリアルなものが増えていますけど。

セシリア・ヒメネスおばあちゃんは、ルネサンスより前の作品の修復だけをやった方がフィットしそうです。

それにしても、東南アジアの寺院にある寝釈迦の顔は、これまた、笑ってしまうぐらい、子供の漫画です。でもやはり定期的に塗り直しされていることと思う。

それと比べると、日本の仏像は、ほとんど、塗り直しは、されていません。

そこで感じることは、「モネの絵を修復されても、日本人も、欧州人も、それほど違和感を持たない」。しかし、「仏像を塗り直しした時、欧州人や東南アジア人は、違和感を持たないが、日本人は、それはやり過ぎだ、といった不調和な感じを抱くことが多い」のではないでしょうか。あくまで傾向ですけど。

つまり、日本人は、絵画や仏像を修復することに対して、ある種の価値の低下、「安っぽくなる」と感じてしまうのかも知れません。「諸行無常」を信じ、ありのままを大事にするから? でもそれだけではないなあ。。(賛否両論の、日光三猿の修復 )

ですから、日本では、絵画修復士という職業人口は、非常に少ないかも知れません。

もっともっと、色々、考察出来るテーマでしょうが、この辺にしておきます。


No.65  (July/2019)(cubase)