苦しい決心 -「隠された十字架」に思うこと 5

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< 浜松市立図書館蔵>
「隠された十字架」新潮社版

若い頃読んだ「隠された十字架」だが、この歳になってまた興味が湧き、図書館で借りてきた。この本や法隆寺について、気付いたことを書いていこうと思う。


梅原猛氏の名著「隠された十字架」、これほど内容の濃い作品は、古今東西なかなか見当たるものではない。私が今回、この「隠された十字架」の再考を、テーマとして掲げてきたことは、身に余る光栄だと感じている。

これまでの、浜松市立浜北図書館での貸出実績は、

貸出履歴

第1回     2015年12月13日~2015年12月27日

第2回(延長)       2015年12月27日~2016年1月11日

第3回               2016年1月10日~2016年1月25日

第4回(延長)       2016年1月24日~2016年2月9日

第5回             2016年2月9日~2016年2月22日

と輝かしい実績を誇ろうとしていた。

法隆寺
法隆寺


いつものように図書館へ

2月9日、第5回の貸出のため、浜松市立浜北図書館へ行ってきた。
いつものように、受付へ行った。
新しい、女性の係員だ。

私「すみません。返却と再貸出しをお願いします。」
と私は、いつもと同じ口調、いつもと同じ心拍数で申し入れた。

係員「はい。。。」
よく分からないが、心拍数は急に上がった。
係員は、パソコンを触っている。

係員「はい。じゃ、これで、どうぞ。」

私「はい。ど~も。」

 おかしい。何かおかしい。


第3回の時の係員は、「また延長できますよ。」と、こちらが延長できるかどうか聞きもしないのに、優しい慈愛に満ちた言葉を加えてくれた。
しかし、今回は何故か冷たい。無愛想過ぎないか。
いやまてよ。それがふつうなのか。
そう、ふつうだ。

 私は顔だけは平静を装いながら、受付から一歩二歩と遠ざかった。
何故か落着かない。胸騒ぎを感じる。
汗がじわっと出てきた。

法隆寺2
法隆寺

自責の念

すぐに家へ帰る気になれなかった。
受付の真正面から約10m先、そこに新聞や雑誌を読めるコーナーがあった。
そこのソファーに座った。
受付が見える方向に座った。

 係員と目が合った気がした。私は無意識を装い、約15度、左に目を移した。
すると、係員の座る場所のそばわらに、ちょっと体格のいい白髪の、割烹着を着た男性が
近づいて、そこに立った。何かお互いに話をしているではないか。

 次の瞬間だ。その二人の4つの目が、シンクロして、私の方へ向けられた。
少なくともその目線は、私の左右1.5mくらいの幅に入っていることは確かだった。
私は、やはりへ左へ約15度、気付かぬ振りをして、視線をずらした。

 私はガタガタと恐怖で震えた。そして心の中で叫んだ。

(私は何も悪いことはしていない。確かに、借りた本をなかなか読まない。何度と延長している。それは。単なるナマケモノだ。ナマケモノが悪いというなら、世の中は悪人だらけじゃないか。私のしていることはルールで許されている範囲ではないか。白い眼で見られるほどのことではないじゃないか。見方を変えれば、私は図書館の貸出実績を引き上げることに多大な貢献をしているのではないか。)

 2~3秒後、目を戻した。その二人の係員は、何か打ち合わせを終えたあとのように、お互い軽く会釈をした。男性は歩いて去っていった。

 私の横には人はいない。斜め後ろの席に、若者らしき男性の後頭部が見える。

うあ~~っつ。今度は、女性の係員だけが、またこちらを見ているではないか。

後ろのカレンダーが歪んでるのか、何かインテリアが気になるのか。と振り返ったが、別に変ではない。

なんだこの心の地殻変動は。

もしだ。もし私のことが原因なら、私が何回も貸出しの延長を繰り返すことが嫌いだと言うなら、目の前を通った時、声を掛けて、一言注意するだろう。
そうだ。そのはずだ。はっきりと、そう言って欲しい。

私は、勇気を振り絞り、敢えて、係員へ目立つように、受付台の約5mくらい前を、左から右へ、ファッションショーのモデルのように上品に通った。

 あれ?係員は、何も反応しない。

なぜだ。

なぜ何も反応しないのか。

 疲れた。
一体何が、私をここまで苦しめるのか。
一体何が。

 率直に申し上げて、5回も借りて、こんなに長い期間があったのに、読み終えられないというのは、私はもしかすると、この書物に対して本当は関心が無いのではないか、という恐ろしい仮説に行き着く。

苦しい決心

苦しい胸の内を告白したい。
私は決心した。

今回で、この書物の貸出は、一応、区切りとしようと。
長い間、お世話になった。心より感謝を申し上げたい。
書物の研究がゼロだったと後ろ指を指されるのもつらいので、せめてもの成果として、
梅原猛氏が本書で解明しようとした、法隆寺の七不思議を紹介しておこうと思う。

隠された十字架 2.001

またいつの日か、続編を再開したい。

なお、本シリーズ第1回で取り上げた、法隆寺内の開催時期の謎についての調査結果は、後日、番外編として、ご報告することにしたい。

ほらふきドンドン 作:ジョージ秋山<講談社コミックス>
ほらふきドンドン 作:ジョージ秋山<講談社コミックス>

続く。